税理士さんに聞く増税・キャッシュレス還元、経費処理の注意点は?

2019年10月1日からの消費税増税および軽減税率の導入に伴い、経費の精算は複雑化しました。8%と10%という2つの税率が混在することに対して、どのような点に注意すればいいのでしょうか。そよかぜ税理士事務所の栗原真平さんに監修いただき、押さえておくべき要点をまとめました。

軽減税率の対象品目

2019年10月1日から消費税の標準税率は10%になりましたが、一部の対象品目は8%の軽減税率が適用されています。その対象品目とは「酒類・外食を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)」となります。

「酒類・外食を除く飲食料品」について少し詳しく説明すると、みりん、調理酒のうち一定のものは酒類となるため軽減税率の対象外。医薬品・医薬部外品、水道料金も軽減税率の対象外で10%が課税されます。外食には購入後店内で飲食するイートインも含まれますが、テイクアウトや出前・宅配は軽減税率の対象となります。ケータリングは基本的に軽減税率の対象外ですが、有料老人ホームなどで行なわれる飲食料品の提供は軽減税率の対象。ホテルのルームサービスは軽減税率の対象外ですが、客室冷蔵庫内にある飲料(酒類除く)などは軽減税率の対象です。

飲食料品のなかでも、一体資産は条件付きで軽減税率が適用されます。一体資産とは、おもちゃ付きのお菓子、グラス付き飲料のように、食品と食品以外が一体となっているもの。一体資産のうち、税抜価額が1万円以下で、食品価額の占める割合が2/3以上の場合、全体が軽減税率の対象となります。たとえば、税抜9000円の一体資産は、そのうち食品価額が6000円以上の場合に軽減税率が適用されます。税抜1万1円以上の一体資産の場合は、すべて税率10%となります。

「週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)」に関しては、コンビニなどで販売されているものは軽減税率の対象外。また、電子版の新聞も軽減税率の対象外となります。

経費精算での注意点

一般的なサラリーマンであれば、経費精算は会社で定められたルールに従って行なうことになると思われますが、この際に気をつけたいのは税率が明記された領収書をもらっておくことです。経理担当者は税率ごとに区分して経費を記帳します。そのため、税率が判別できない領収書を提出すると、経理担当者を困らせてしまうことになります。会社によっては精算してもらえないことも考えられるでしょう。

たとえば、来客用にお茶と紙コップを購入した場合、お茶は8%、紙コップは10%の税率が適用されます。このように複数の税率が混在する買物をした場合、領収書が1枚であっても、経費の記帳は税率ごとに別々に行なわれます。新税率に対応したレジから出された領収書であれば、税率ごとに区分された領収書が発行されますが、手書きの領収書や古いレジから発行される領収書をもらう場合は注意が必要です。

キャッシュレス還元を受けた際の扱い

消費税増税とともに、2020年6月までの期間限定で「キャッシュレス・消費者還元事業」がスタートしていますが、この扱いについても注意が必要です。同事業によって還元されるポイントは、原則として雑収入として計上が必要となります。

個人のクレジットカードや電子マネーなどで立て替える場合は、還元されるポイントの扱いについて、会社の方針を確認しておいたほうがいいでしょう。法人向けのキャッシュレス決済サービスに関しては、同事業の還元対象外となる場合もあります。

なお、大手コンビニではポイントが即時充当され、実質的に割引となりますが、これはあくまで値引きではなくポイントの充当という扱いになります。そのため経費処理としては、割引前の金額を計上して、即時充当分は雑収入として計上することが適切です。

税抜金額に対して計算するポイントに注意

そもそもクレジットカードや電子マネー、コード決済などは、「キャッシュレス・消費者還元事業」とは別に、利用額に応じてポイントが貯まるものがほとんどです。これらは基本的に税込金額に対してポイントの計算が行なわれますが、利用先によっては税抜金額に対して計算される場合もあります。たとえば税抜100円につき1ポイントが貯まる店であれば、税込108円で1ポイントが貯まる場合と、税込110円で1ポイントが貯まる場合があることになります。

支払い時にポイントカードを提示するような場合では、クレジットカードは税込100円につき1ポイントでも、ポイントカードは税抜100円につき1ポイントというケースもあります。微々たる違いではありますが、少しでも無駄を省くのであれば、頭の片隅に入れておいたほうがいいでしょう。

8%と10%が混在するときの領収書の書き方

8%と10%の商品が混在するものを販売して領収書を求められた際は、消費税はまとめて記載せず、税率ごとに分けて記載する必要があります。現在は100円ショップなどで販売されている領収書も複数の税額記入欄がありますし、インターネット上でも複数税率に対応した領収書のフォーマットが無料で配布されているので、上手に活用するといいでしょう。

なお、免税事業者であっても、課税事業者に軽減税率の対象となる商品を販売する場合は、課税事業者側から区分記載請求書等の交付を求められる場合があります。区分記載請求書は、これまでの請求書の内容に加え、「軽減税率の対象品目である旨」と「税率の異なるごとに区分して合計した税込金額」が記載された請求書のこと。それほど難しいことではなく、国税庁の公式サイトなどにも説明がありますので、一度確認してみることをおすすめします。

【参考】国税庁:消費税軽減税率制度の手引きについて
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/01-1.htm

9月以前に開始した仕事の税率

増税前に始まり、増税後に請求書を出す仕事をした場合の税率に悩んでいる人もいるのではないでしょうか。消費税は物品の引き渡しや役務の提供がされた日を基準に決められます。つまり、2019年9月以前に納品が済んでいれば、請求書の送付が10月以降であっても消費税率は8%となります。

レジを新たに購入した場合の注意点

増税に伴いレジを買い替えたり、新たに購入した事業者も多いでしょう。経費処理上では、10万円未満であれば消耗品となりますが、10万円以上の場合は減価償却資産としての計上が必要です。軽減税率対策補助金(申請は既に締切)を活用してレジを購入した場合、補助金を雑収入として計上する方法もあれば、圧縮記帳を使って差額を取得価格とする方法もあります。

なお、条件を満たせば、10万円以上でも消耗品として処理することも可能です。詳しくは税理士などの専門家に確認することをおすすめします。

税理士への報酬アップは必要?

経理に関しては税理士に丸投げしているという方も少なくないでしょうが、軽減税率の導入によって税理士の作業量は確実に増加しています。増税分はもちろんのことですが、基本報酬のアップも求められる可能性は否定できないでしょう。栗原税理士も「単純に業務量が増えるので、報酬も増やしてほしい気持ちは、どの税理士も持っていると思います」と話します。

実際に値上げが必要になるかは、各事業者と各税理士による話し合いで決められるでしょうが、記帳代行まで税理士に依頼している場合と、顧問のみ依頼している場合では、税理士の負担は異なります。報酬アップを最小限に抑えたいのであれば、記帳は自分で行なったり、できるだけ作業を効率化したりして、税理士にかける負担を減らす努力をする必要があるでしょう。

まとめ

以上のように、消費税増税に伴い、様々な場面で業務が複雑化することは避けられません。まずは対象品目を正しく把握すること、そして経費精算や請求書・領収書の発行は税率ごとに区分して記載することが大切です。国税庁の公式サイト、政府広報オンラインなどの解説ページも参照のうえ、わからないことは税理士など専門家に相談したほうがいいでしょう。

【参考】政府広報オンライン:「消費税の軽減税率制度」
https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/keigen_zeiritsu/index.html