会計士・税理士に聞く法人カードを使うメリット

法人カードを利用すると、業務効率化や経費削減などの効果が期待できると言われますが、税理士の観点から見たメリットは、どのようなものなのでしょうか。これまで1000社以上の決算書をレビューし、中小企業の会計、税務、資金繰り対策のアドバイザーとして活躍する公認会計士・税理士の高野新也さんにお尋ねしました。
高野さんによると、カード払いにはメリットが多い一方で、個人カードをビジネスでも利用して、資金繰りが見えなくなってしまうケースもあるそうです。そのため、ビジネスとプライベートでカードを使い分けることが重要とのこと。カードの選び方や活用法まで、プロの視点で語っていただきました。

約8割の事業者が法人カードを利用。個人事業主はさらに多く

――高野さんが見られている企業や個人事業主では、どのくらいが法人カードを利用されているのでしょうか?

私のクライアントに限ってかも知れませんが、8割くらいが使われています。おそらく世間の平均より多いですが、30代の若い経営者が多いことも関係していると思います。個人事業主に関しては、ほとんどの方が使われていますね。

――法人カードを使うメリットは、どのようにお考えでしょうか?

まずポイントが貯まることですね。それと、現金を持たずに決済できるので、仮払いを用意する手間が省けること。口座振込と比較しても、手数料が節約できますし、手続きも簡単です。あとは支払いが約1カ月後になるので、少しですが資金繰りも楽になると思います。

法人カードの利用履歴が残っても領収書は必要

――カードで払っていても、領収書は必要でしょうか?

必要です。よく「クレジットカードの明細があればいいでしょ」と言われるのですが、あくまで利用履歴なので、税務的な面では証跡にはなりません。カードの明細では絶対に認めてもらえないと言い切れるものではありませんが、ルールとしては領収書が必要です。

それに、きちんと領収書を管理している会社と、領収書は破棄してしまい、カードの明細しかない会社だったら、当然前者のほうが税務署の心象もいいですよね。きちんと管理していない会社は、何か不備があるかもしれない、そのような視点で調査が行われる可能性もあります。

――そういう印象的なものは税務調査で影響があるのでしょうか?

やはり人間ですから、どうしても先入観が働くことは否定できません。そういう意味では、カード払いはしっかり記録に残ります。例えば、外注委託先に対して手渡しの現金払いが多いと、架空の取引先と疑われてしまう可能性も考えられるので、できるだけ口座を通して取引したほうがいいでしょう。

また、カード払いをしていても、ビジネスとプライベートでカードを使い分けず、ごちゃ混ぜになっていると、税務署の心象も悪くなります。経費精算も煩雑になり、記帳漏れも起こりやすくなるので、ビジネス用とプライベート用で別々のカードを使うことをおすすめします。

法人カード利用でビジネスとプライベートを明瞭に

――カードを使い分けずにいると、他にも考えられる不都合はありますでしょうか?

会社のお金なのか、個人のお金なのか、わからなくなってしまうケースは多いです。これはビジネスでもプライベートでも同じですが、たいていの場合、うまくいかない方は資金繰りがよく見えていません。

生活費が足りないからといって、会社の口座から現金を引き出す方がいらっしゃいますが、本来は給与としてもらわなければいけないものです。それは勝手に会社から借りてる状態なので、借りたら返済しなければいけないですし、それが行ったり来たりしていると、だんだんわからなくなって、自転車操業から抜け出せなくなってしまいます。

――実際にそういう例は多いのでしょうか?

過去に私のお客様でも、会社を大きくするために融資を受けたのに、生活費が足りないからといって、手を付けてしまった方がいらっしゃいました。せっかく融資を受けたのに、それでは意味がありません。ビジネスで使うクレジットカードの支払いを個人の口座から引き落としていると、資金繰りが見えなくなって、こうしたケースに陥ってしまう危険性があるので注意が必要です。

税金もクレジットカードで払えばポイントが貯まる

――法人カードを使われている方々は、どのようなシーンでの利用が多いのでしょうか?

飲食店、ガソリンスタンド、インターネット通販が多いです。ただ、基本的に現金しか受け付けていないところ以外では、みなさんカードで払われてますね。そういう習慣化をされていると思います。

私のお客様以外も含めると、インターネット系の広告費や、海外での買付に使われている方もいるようです。特に海外で利用する際は、カード払いなら日本円で引き落とされるので、レート計算の必要がなくなって、経理的にも負担が軽減されるのではないかと思います。

――税金をカードで払われている方もいらっしゃいますか?

たくさんいます。銀行振込よりも手間がかからないですし、カード利用に対するポイントも貯まるので、私はお客様にもクレジットカード払いでの納税をすすめています。ただし、手数料が1万円につき83.6円かかるので、それよりも還元率の高いカードを使ったほうがいいでしょう。納税額によっては、カードの限度額にも注意が必要です。

クレジットカードのポイントは利益計上が適切

――カード利用で貯まるポイントの扱いは、どうしたらいいでしょうか?

厳密に言えば、きちんと換金価値を考えて利益計上しなければいけません。大きな金額にならなければ、あまり問題にはならないかもしれませんが、ポイントをキャッシュバックとして使った場合は、口座にも記録が残るので、計上しなければ計算が合わなくなるのではないでしょうか。

――ポイントの使い道は、どのように考えたらいいでしょうか?

そこは倫理観の問題になると思います。ポイントを個人の利益のために使うと、横領になるリスクもあります。ポイントは会社で使う備品の購入や、福利厚生として使えるものに交換すべきです。

法人クレジットカード選びでは機会損失に注意

――カードを選ぶ際に気をつけたほうがいいことはありますか?

国際ブランドがMastercardかVisaのカードは、1枚は持っておいたほうがいいと思います。カード払いができる店でも、MastercardかVisa以外は受け付けない店も少なくないですから。本来ポイントが貯まるタイミングなのに、カード払いできずに機会損失してしまったらもったいないですよね。

私のお客様のなかでも、年会費が高いカードを作ったはいいものの、利用できない店が多くて別のカードに乗り換えた方がいらっしゃいました。正直なところ、営業を受けてとか、名前を知っていたからとか、そういう理由でカードを選ばれた方も多いです。カードに何を求めるのか、しっかり検討してから申し込んだほうがいいと思います。

――法人カードでも、年会費が安くて最低限の機能しかないカードと、年会費が高い代わりに機能が充実したカードがあると思います。どのように選ぶといいでしょうか?

そこは考え方次第だと思います。単純に決済だけできればいいのであれば、年会費の安いカードで十分だと思いますが、カードを持つことでステータスを得たいのであれば、年会費が高いカードのほうがメリットは大きいのではないでしょうか。特に普段予約が取れない人気店で予約できたり、コンシェルジュサービスが使えたりするカードは、接待で強さを発揮すると思います。

それに、年会費の高いカードは、一般的に旅行傷害保険やショッピング保険も充実していますし、空港ラウンジなどのサービスも利用できます。出張の多い会社や高額な機材の購入機会がある会社なら、実益も大きいのではないかと思います。そうしたことも含めたうえでの経費と考えれば、使い方次第で年会費の元を取ることは十分できるのではないでしょうか。

コンシェルジュで「時間を買う」

――おすすめのカードの使い方はありますか?

コンシェルジュサービスが使えるクレジットカードを持っているなら、接待で使う店を探すとか、出張の手配をするとか、積極的に使ったほうがいいのではないかと思います。日本人はこんなのお願いしたら悪いのかなと考えがちなので、せっかくコンシェルジュ機能があっても、使いこなせていない人が多いと思います。特に忙しい経営者であれば、「時間を買う」という考え方を持って、より事業に集中できるようなカードの使い方をしてほしいですね。

あと、少し話は逸れるかもしれませんが、個人的にはカードを持つことで得られる経験も大切にしたほうがいいのではないかなと思います。年会費が高いカードには、会員限定のイベントや優待も多いですよね。そこに行かなければわからないこともあると思いますし、そういった場での出会いもあるでしょうし、やっぱり経験は第三の財産だと思っております。それが経営活動につながるとまでは言い切れませんが、新しい経験を積むきっかけにはなると思います。

――税理士としても、担当する会社には法人カードを使っていてほしいものでしょうか?

そうですね。私は記帳代行は基本的にやらないのですが、記帳を税理士に任せている場合は、法人カードを使っているほうが税理士の負担も減るのではないかと思います。税理士のスタンスによっても違うとは思いますが、そういう雑務的な時間はできるだけ減らして、資金繰りや会社の将来などについて話す時間を増やしたほうが、お互いに有益なのではないかと思います。

まとめ

ビジネスにカード払いを取り入れることについて、数多くのメリットを挙げてくださった高野さん。その一方で、資金繰りが見えなくなることを防ぐために、ビジネス用のカードは法人口座で決済して、個人カードとは口座を分けることが大切だと教えてくださいました。

また、カード選びについても、国際ブランドの選択に注意することや、年会費に対する考え方など、ビジネス利用することを踏まえたアドバイスをいただきました。特に「時間を買う」という考え方でカードを活用することは、忙しい経営者が事業に集中するうえでもカギとなるに違いありません。経費管理のためだけでなく、業務効率をアップさせるためにも、法人カードを役立ててみてはいかがでしょうか?

高野新也

2005年、23歳で公認会計士試験に合格する。

あずさ監査法人に入社後は、金融セクションで経済・金融のスペシャリストとして都市銀行、地方銀行等の監査証明業務を担当。銀行が融資先に対して行う決算書評価を通じて、上場企業から中小企業まで延べ1,000社を超す決算書のレビューを実施。

独立後の現在は、中小企業側に立ち銀行との交渉を行うことができる数少ない税理士として活躍。

また、クラウド会計を推奨し、中小企業の間接業務の効率化を図り、本業に注力してもらう仕組み作りにも力を入れている。