法人クレジットカードを利用した経費処理と仕訳について徹底解説!
個人事業主は、個人名義のクレジットカードしか利用できないと思い込んではいませんか。しかし、実は企業や法人でなくても法人クレジットカードを利用することが可能です。しかも、個人事業主が法人クレジットカードを利用することにはさまざまなメリットがあります。この記事では、個人事業主だからこそ知っておきたい法人カードを利用した経費処理のメリットや処理方法について解説します。
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法人クレジットカード(ビジネスカード)で経費処理をするメリット
「個人事業主が法人クレジットカードを利用できることを初めて知った」という人もいるのではないでしょうか。なかには、個人クレジットカードのほかに法人クレジットカードがあることを知らなかった人もいるかもしれません。そこで、まずは「法人クレジットカードと個人クレジットカードはどこが違うのか」ということから説明します。なお、法人クレジットカードには企業向けのコーポレートカードと、個人事業主や会社経営者などを対象としたビジネスカードがあります。今回説明するのは、個人事業主が会計処理に使えるビジネスカードについてです。
法人クレジットカード、個人クレジットカードのどちらも、カードに記載されている名義人のみが使える点では共通しています。両者で大きく異なるのは、カードの利用代金を引き落とす口座です。個人クレジットカードは、個人口座からの引き落としですが、法人クレジットカードは個人口座および事業用口座のどちらも設定することができます。
ビジネス上の買い物を個人クレジットカードで行うと、プライベートの買い物も業務上の買い物も同じ明細に記載されるため、経費処理をする際の仕訳が大変になりがちです。一方、法人クレジットカードの場合は、キャッシュフローが明確になります。例えば、ビジネス関連の支払いは事業用口座から引き落とされるようにしておくことも可能です。
また、法人クレジットカードに付帯している特典は、個人クレジットカードのものとは異なります。例えば、出張や接待などで利用しやすいビジネス向けの特典が多い傾向です。宿泊費や飲食代、施設利用料などの割引特典も多いので、上手に使いこなせば、経費節減にもつながるでしょう。カード会社やカードの種類によっては、コンシェルジュサービスが利用できる場合もあります。飛行機や宿泊などの予約、お祝いや手土産の手配などをコンシェルジュに任せれば、さらに手間と経費を削減することが可能です。
経費として処理できる項目について
個人事業主が確定申告する場合、青色申告(事前に申請が必要)と白色申告のどちらかを選べます。白色申告と10万円控除の青色申告の場合は、単式簿記の記帳で済みますが、最大65万円控除の青色申告をする場合は、複式帳簿に記帳することが必要です。そのため、白色申告と10万円控除の青色申告で行う経費処理と、最大65万円控除で行う経費処理とでは、仕訳の勘定科目が異なります。
また、最大65万円控除の青色申告を行う場合は、クレジットカード決済した経費が「個人口座から引き落とされるのか」「事業用口座から引き落とされるのか」という点にも注目しなければなりません。なぜなら、どちらから引き落とされる設定になっているかによって、勘定科目が違ってくるからです。白色申告と10万円控除の青色申告の場合は、単式簿記で記帳するので、クレジットカードで購入した日の支出として「消耗品費5,000円」などと記帳すれば済みます。
しかし、65万円控除の青色申告の場合は、複式帳簿への記帳なので、借方に消耗品費と記帳するだけでは足りません。個人口座から引き落とされる場合は、購入日の貸方を「事業主借5,000円」と記載します。一方、事業用口座から引き落とされる場合は、未払金という勘定科目を利用して、購入日と引き落とし日の2回記帳するのが基本です。具体的には、購入日の借方に「消耗品費5,000円」、貸方に「未払金5,000円」と記載。また、引き落とし日の借方に「未払金5,000円」、貸方に「普通預金5,000円」と記帳するという形になります。
クレジットカードでの支払いに関しては、例外的に引き落とし日だけの記帳で済ませても良いことになっていますが、年末の購入などで支払日が年をまたぐ場合は2回に分けて記帳しなければなりません。これらのことを踏まえたうえで、個人事業主が経費として会計処理できる項目と、できない項目についてもっと詳しく見ていきましょう。
経費として処理できる各項目と説明
経費とは、事業を行ううえで発生した費用のことです。物品を販売するのであれば、物品の購入費や運送費、販売員の人件費、店舗を借りるための賃料、品物を包むための包装紙や袋を購入する費用などが経費に当たります。物の仕入れを行わないような仕事、例えば記事を作成してWeb上でやり取りするような仕事の場合は、通信費や光熱費などが経費です。法人クレジットカードで支払う費用のうち、個人事業主が経費として処理できる項目を具体的に挙げていくと次のような項目があります。
水道光熱費
事業を行う際に使用する電気、水道、ガスなどの料金のことです。暖房に利用する灯油の購入費も水道光熱費に含まれます。事業を行うために事務所を借りているのであれば、事務所で使った水道代や、ガス代も水道光熱費として処理することが可能です。
荷造運賃
商品発送の際に必要な箱やテープの購入にかかった費用と、商品発送にかかる運送料のことです。
通信費
事業を行ううえで必要な電話代やインターネット料金のほか、はがき代や切手代、商品以外を発送する際の運送料なども含みます。
接待交際費
取引先と付き合いに要した費用のことです。取引先との飲食や慶弔見舞金のほかに、お中元やお歳暮などのギフト代を含みます。
消耗品費
10万円未満の文具や事業用の家具、パソコンなどのことです。
減価償却費
10万円を超える高額備品は、あらかじめ決められている耐用年数にわたり、償却残高を経費として計上します。
修繕費
物品・店舗などの修理や、修繕にかかる費用のことです。賃貸物件を明けわたす際の原状回復費用も修繕費として処理します。
地代家賃
事業に使用する事務所や倉庫、駐車場などの賃料や管理費、共益費などのことです。更新料や礼金は、20万円未満であれば経費として精算できます。
旅費交通費
事業で移動する際に要した交通費や有料道路の料金、駐車場代、宿泊費などのことです。車のガソリン代も、この項目で処理します。
その他
外注工賃や利子割引料、貸倒金なども経費として経理上処理できる勘定科目です。なお、いずれの項目にも分類できない経費は雑費として処理します。一度決めた勘定項目は、次回以降も同じ項目として処理することが大切です。雑費としての処理が多すぎると目立ち、税務署などから目を付けられやすくなるため、できるだけ用途がわかりやすい項目に仕訳しましょう。
法人クレジットカードの「年会費」も経費で処理が可能
ビジネス専用の法人クレジットカードであれば、年会費を経費として処理することができます。なぜなら、使用目的がビジネスに限定されているからです。引き落とし口座は業務専用の口座でなくてもかまいません。「法人クレジットカードが業務に使用する物だけに限定して使用するクレジットカード」という点が重要です。個人事業主の場合、個人用のクレジットカードで事業に使用する物の購入や支払いをすることもあるでしょう。しかし、たまに業務用の物を購入する程度の場合、クレジットカードの年会費は経費として処理することは認められません。
個人用のクレジットカードであっても、業務に使用する物の購入頻度が50%を超えている場合は、年会費を経費として計上できるという意見もあります。しかし、業務用としての使用頻度が高ければ個人用クレジットカードの年会費が必ず経費と認められるかというと難しいところです。専門家によっても判断が分かれるため、「税務署の担当者や税理士によっては認めない」という判断になることもありえます。そのため、確実にクレジットカードの年会費を費用として処理したい場合は、業務上に必要な物の支払いにだけ利用する法人クレジットカードを別に用意し、使い分けたほうが無難です。
なお、法人クレジットカードの年会費を帳簿に記帳するのであれば、勘定科目は「諸会費」あるいは「支払手数料」が適当でしょう。諸会費とは、業務上加入する必要がある団体や組合に支払う入会金や会費を管理する勘定科目です。法人クレジットカードの会員になるための会費と理解すれば、諸会費で良いということになります。一方、支払手数料は、報酬の支払いにかかった費用や手数料などを管理する勘定科目です。法人クレジットカードを管理するための経費と捉えれば、年会費は支払手数料とするのが妥当でしょう。
経費として処理できない各項目と説明
業務に使用していれば、どんな物でも必ず経費として計上できるわけではありません。なかには、経費計上が難しい物もあります。特に、個人事業主の場合は「経費として処理できない」というより、「場合によっては経費として計上できなくなる」という項目が多いため、要注意です。例えば、水道光熱費のうちガス代や水道代を経費とすることが難しい場合があります。ガスを業務で利用する部屋の暖房用に使用している場合は、経費として認められますが、事業とは無関係な目的で利用している場合は経費として認められません。特に、自宅兼事務所で業務を行っている場合、事業内容によってはガス代や水道代を経費と認めさせるのは難しいでしょう。
また、接待交際費も経費として認められる物と認められない物があるので注意が必要です。接待交際費として処理できるのは、あくまでも事業に関連する飲食代やギフト代、慶弔見舞金などに限られます。そのため、個人的な付き合いでお中元やお歳暮を贈る場合や、親戚などに慶弔見舞金を贈る場合は経費として処理できません。例えば、個人用のクレジットカードで同じ物をギフトとして複数購入し、まとめて支払った場合は、相手によって経費になる物とならない物が出てきます。そのため、明確に分けるためにも法人クレジットカードを利用したほうが便利です。
個人事業主の経費計上を判断するには、「事業のために支払ったのか」という点を意識しましょう。自分自身や家族などが生活するために支払った費用は、経費扱いにはなりません。さらに、事業用に購入した設備であっても実際に稼働していない物を減価償却費として計上することも不可です。通常なら貸倒金として計上できる回収不能な売掛金や貸付金なども、客観的に見て回収不能と判断されない場合は経費と認められないので注意が必要です。
知っておくべき「家事按分」の考えと適切な割合
個人事業主の場合、自宅以外の場所に事務所を借りて仕事をしている人は少ないかもしれません。多くの場合は、自宅を仕事場として兼用しているのではないでしょうか。その場合、1つの物を生活用としても事業用としても使い、家族とも共用することがどうしても起こりがちです。特に、家賃や水道光熱費など事業用とプライベート用が混然一体となってしまい、明確に分けるのが難しくなってしまいます。このようなケースでは、実際にかかった費用を一定の比率で分け、一方を事業で使用した分とみなして経費に計上するしかありません。このような分け方のルールを家事按分といいます。
青色申告する個人事業主が家事按分する必要がある費用としては、例えば家賃や水道光熱費、通信費などです。「どのくらいの割合で事業用に使っているか」を考慮したうえで、按分の割合を設定することができます。しかし、あまり事業用の割合を大きくしすぎると不自然です。例えば、家族と生活している自宅で仕事をしている場合、家賃の大半を事業用に家事按分しているのはおかしいと判断されても仕方がないでしょう。自宅スペースの4分の1程度を仕事場として利用している場合は、経費として家事按分できる家賃も4分の1ということになります。使用する面積ではなく、使用する時間で家事按分することも可能です。
また、持ち家の自宅を仕事場として使用している場合、住宅ローンの元本部分は経費として家事按分できません。建物に関しては、減価償却費として複数年にわたって計上することになります。住宅ローンについては、金利部分のみを家事按分して経費計上することは可能です。また、持ち家の場合、家族との共用部分も増えるケースが多いため、家事按分は慎重に行う必要があります。
法人カードの経費処理で「領収書」は必要?不必要?
事業を行うのに必要な支払いに関しては、経費として計上することが可能ですが、必要経費として会計処理するためには、基本的に領収書が必要です。しかし、支払いの内容によっては領収書の発行が難しい場合もあります。例えば、お祝いや葬儀などの際に持参する慶弔見舞金などです。お祝いやお見舞金を渡す際は、一般常識として相手へ領収書の発行をお願いすることはしません。また、移動にバスや電車などの公共交通機関を利用したときには、切符やバス代の領収書をもらえなかったり領収書の発行を忘れたりする場合もあるでしょう。このような場合は、出金伝票を切る形で経費処理します。
ただし、ここで注意が必要なのが法人クレジットカードで支払う場合です。クレジットカードは、信用取引による決済なので、購入時点では実際に現金や有価証券の受領が行われていません。決済時に発行される領収書には、クレジット払いと記載されるだけなので、正式に認められないのです。そのため、法人クレジットカードで支払う場合は「領収書はいらない」ということになります。しかし、税務署などからの問い合わせで購入履歴の問い合わせがあった場合など、証明する書類が必要になる可能性も否めません。レシートや領収書と一緒にクレジットカード売上票が渡されるので、レシートや領収書と共にクレジットカード売上票を保管しておくと良いでしょう。
なお、一般的にはクレジットカード会社の請求明細書や利用明細書は、店舗との取引を証明する領収書として利用できません。ただし、利用店舗名や利用日、購入した商品、サービスの内容、購入金額、購入者の氏名もしくは企業名などが記載されていれば、領収書の代わりとして利用できる場合があります。サービス提供業者によっては、領収書を発行していないこともあるので、その場合はクレジットカードの利用明細書が使える可能性があることも押さえておきましょう。どうしても不安な場合は、管轄の税務署に確認しておくと安心です。
法人クレジットカードで決済して事務処理を簡単に
正式な領収書としての効力はないと述べたクレジットカード会社発行の利用明細書ですが上手に活用すると、経費処理が簡単になります。利用明細書には利用した日付や支払い先、金額などが日付順に表示されているので、効率的に事務処理できて便利です。記帳した内容と見比べることで計上の漏れや重複を防ぐことにもつながります。
また、接待費や交通費、宿泊費などの支払いに法人クレジットカードを利用すれば、仮払いの準備や立て替え払いの精算が不要です。支払いが発生するたびに行っていた現金処理の機会が少なくなれば、それだけ手間も減り、計算や出金の間違いも減らせます。法人クレジットカードで支払った分は、1カ月分まとめて決まった日に引き落とされるので、支払先ごとに行っていた面倒な振込作業もいりません。締め日から引き落としまでの期間も長いので、支払いのための資金調達も計画的に行えます。
法人クレジットカードの支払いを、会計ソフトやクラウドなどと連携させれば、さらに事務処理を簡単にすることが可能です。クレジットカードの利用履歴は、自動的にデータ化されるため、帳簿の転記や金額のチェックなど面倒な作業を減らすことができます。手作業での仕訳や集計、エクセルを使っての出金処理などは、手間がかかるだけでなくミスも起きやすい点が問題です。カードでの支払いと会計ソフトやクラウドを連動させることでミスが起こるタイミングを減らすことができれば、処理がより正確になります。事務を簡素化しながら正確な処理も可能になるのですから、現金や個人クレジットカードで決済するよりもメリットは大きいといってよいでしょう。
まとめ
個人事業主の場合、わざわざ法人クレジットカードを作らなくても、支払いのうちどの部分が事業用なのかを把握するのはそれほど難しくないかもしれません。しかし、家事按分の必要性や勘定科目の仕訳などを考えると、法人クレジットカードで支払い、事業専用の口座から引き落とししたほうが明確に説明しやすく事務処理も便利です。会計ソフトやクラウドとの連携も含め、法人クレジットカードの利用を考えてみましょう。